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東京地方裁判所 平成11年(ワ)5744号 判決

原告 A

右訴訟代理人弁護士 渡邊信

被告 鈴木敏和

右訴訟代理人弁護士 大木卓

同 長谷川正浩

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、四九三万四四〇〇円及びこれに対する平成一一年五月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、平成七年四月から、立正大学大学院(以下「本件大学院」という。)法学研究科商法学専攻修士課程に所属しており、被告は、当時、本件大学院法学研究科教授であり、かつ、本件大学院法学研究科委員会(以下「本件研究科委員会」という。)の委員長であった。

2(一)  被告は、平成八年一一月から平成九年二月末日までの間の本件研究科委員会において、委員の教授らに対し、左記の事実(以下「本件係争事実」という。)があったことを発言し(以下、被告のこの発言を「本件発言]という。)、これにより原告の名誉を毀損するとともに原告を侮辱した(以下、この被告の行為を「本件名誉毀損等行為一」という。)。

一九九六年九月二五日午後七時四〇分ころ(原告が)講義を終えて研究室に戻る被告を追うように三階談話室前に行き、被告を体で談話室へ押し込み「そこに座れ」と怒鳴り散らした。たまたま院生数人が現場に居合わせたので、原告は「うるさい」と怒鳴り、後ろ手で鍵を閉めたので、被告は「法律上も問題があるよ」と注意し、ただちに解鍵し「何があったか説明しなさい」と告げた。原告は、意味不明の怒号に続けて「松元を辞めさせろ」というので「冷静になったら話を聞いてやるから出直してこい」というと、意味不明のことをいいながら、退席した。

(二)  被告は、平成八年一一月から平成九年二月末日までの間の本件大学院運営委員会(以下「本件運営委員会」という。)において、委員の教授らに対し、本件発言をし、これにより原告の名誉を毀損するとともに原告を侮辱した(以下、この被告の行為を「本件名誉毀損等行為二」という。)。

(三)  本件係争事実は、事実無根である。

3  本件研究科委員会及びその具申を受けた本件運営委員会は、本件発言を信用して、平成九年二月二六日、原告を無期停学にするとともに平成八年度の原告の全取得単位を無効とする旨の処分(以下「本件処分」という。)に付した。

4  原告は、本件名誉毀損等行為一及び二により、次のとおり合計四九三万四四〇〇円の損害を受けた。

(一) 慰謝料三〇〇万円

原告は、本件発言により本件処分を受け、本件処分は学内に掲示されて周知の事実となり、恥辱を与えられた。これにより原告が受けた精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は、三〇〇万円が相当である。

(二) 授業料八五万六〇〇〇円

原告は、本件処分により当該年度のすべての単位を剥奪されたので、当該年度までに納入済みの授業料は、すべて無駄となり、同額の損害を受けたが、右授業料八五万六〇〇〇円は、その一部である。

(三) 入学時寄付金二〇万円

右(二)と同様の理由による損害である。

(四) 弁護士費用八七万八四〇〇円

原告は、本件訴訟の遂行を原告訴訟代理人弁護士渡邊信に委任し、そのため弁護士費用を支出せざるを得なくなった。右弁護士費用は、八七万八四〇〇円が相当である。

5  よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づき、右損害合計四九三万四四〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成一一年五月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。ただし、原告の専攻は、商法学専攻ではなく、法学専攻が正しい。

2(一)  同2(一)のうち、被告が、平成八年一一月から平成九年二月末日までの間の本件研究科委員会において、委員の教授らに対し、本件発言をしたことは認め、その余は否認する。

(二)  同2(二)のうち、被告が、平成八年一一月から平成九年二月末日までの間の本件運営委員会において、委員の教授らに対し、本件発言をしたことは認め、その余は否認する。

(三)  同2(三)は否認する。本件係争事実は、事実である。

3  同3のうち、本件運営委員会が、平成九年二月二六日、原告を本件処分に付したことは認め、その余は否認する。

4  同4は否認する。

理由

一  本件事実関係

請求原因1の事実(ただし、原告の専攻を除く。)、被告が、平成八年一一月から平成九年二月末日までの間の本件研究科委員会において、委員の教授らに対し、本件発言をしたこと、被告が、平成八年一一月から平成九年二月末日までの間の本件運営委員会において、委員の教授らに対し、本件発言をしたこと、本件運営委員会が、平成九年二月二六日、原告を本件処分に付したことは当事者間に争いがなく、右争いがない事実に加えて、証拠(甲一、二、四、五、一〇、一五、二二、二七、二八、乙一ないし四、原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実(以下「本件事実関係」という。)が認められる。

1(一)  原告(昭和一八年一〇月二四日生。平成八年九月当時、五二歳)は、あさひ銀行に勤務しながら、平成七年四月から、本件大学院法学研究科法学専攻修士課程において受講していたが、平成九年二月二六日、立正大学長から本件処分を受けた。

(二)  被告(平成八年九月当時、六六歳)は、平成八年当時、本件大学院法学研究科教授であり、かつ、本件研究科委員長であった。

2  平成八年九月二五日の原告と被告の行動の概要は、次のとおりである。

(一)  原告は、午前中、勤務先のあさひ銀行の浦和市内の支店で勤務し、午前一一時半過ぎころ、勤務先を早退した。その後、原告は、食事、買物等を済ませて、自分の自動車で本件大学院のある立正大学熊谷校舎(埼玉県熊谷市万吉一七〇〇所在。以下「熊谷校舎」という。)に向かい、午後四時前には熊谷校舎に到着した。原告は、午後四時から午後五時半ころまで熊谷校舎において租税法特講を受講し、午後六時から熊谷校舎二階第二演習室において松元教授の憲法特殊研究を受講するために出席した。松元教授が講義の最初に出席者の出欠を取ったところ、原告が松元教授の出欠の取り方に抗議をし、両者の間で口論となった。

(二)  被告は、午後六時から熊谷校舎二階第一演習室(前記第二演習室の隣りである。)において比較法特殊研究を講義した。午後七時半ころ講義を終えた被告は、それから熊谷校舎三階の自分の研究室へ階段を上って戻ろうとした。

(三)  その直後の午後七時四〇分ころ、原告は、被告のあとを追いかけるようにして付いてきて熊谷校舎三階の談話室前で被告を体でドアの開いていた談話室へ押し込むようにした。被告は、原告と体は触れなかったものの、結果的に原告に談話室へ押し込まれた形になった。そして、原告は、被告に対し、「そこへ座れ」と怒鳴った。被告は、原告に対し、「君の銀行では上司に対して、そこへ座れなどと言うのか」と注意した。そこへ、先に被告の講義を受講した大学院生数人が談話室の前に来て、被告を食事に誘った。これに対し、原告は、「女子供はあっちへいっていろ」と怒鳴り、後ろ手で談話室の鍵を閉めたので、被告は「刑事上の問題になるよ」と注意し、鍵を開けて「何があったか説明しなさい」と告げた。原告は、意味不明の怒号に続けて「松元を辞めさせろ」というので、被告が「冷静になったら話を聞いてやるから出直してこい」というと、原告は、意味不明のことをいいながら、その場を去った。

3(一)  被告は、平成八年一一月から平成九年二月末日までの間の本件研究科委員会(月一回程度開催される。その審議事項には、学生の指導及び賞罰に関する事項がある。)において、委員の教授らに対し、本件発言をした。

(二)  被告は、平成八年一一月から平成九年二月末日までの間の本件運営委員会(学長が必要に応じて招集する。その審議事項には、大学院の運営に関する重要事項がある。)において、委員の教授らに対し、本件発言をした。

4(一)  被告は、平成八年一二月六日、原告の本件大学院におけるそれまでの言動等について尋ねるため、本件研究科委員長室で徳永教授とともに原告と面談した。

(二)  被告は、平成八年一二月六日の面談の際、原告から十分な説明がなかったので、同月一〇日付け「弁明書の提出について」と題する書面により、原告に対し、原告の本件大学院におけるそれまでの言動等を特定し、これについて、同月二〇日までに弁明書を提出するように求めた。被告が原告に対し右書面により弁明を求めた原告の言動中には、平成八年九月二五日の松元教授の憲法特殊研究の講義中の件及び被告を談話室に押し込んだ件があった。

(三)  原告は、被告の右書面に対し、平成九年二月一七日付け「ご回答」と題する書面により、弁明を求められた事項につき、記憶にない旨回答した。

(四)  本件処分後、原告は、被告に対し、平成九年三月五日付け「第4回弁明書」と題する書面により、本件係争事実につき、「被告と歓談中何回も話の腰を折る学生の非礼な出入りに対してドアをしめたにすぎません」と弁明した。

二  本件名誉毀損等行為一及び二

本件事実関係によれば、本件係争事実のあったことが認められる。これに対し、原告は、原告が平成八年九月二五日午後六時からの熊谷校舎二階第二演習室における松元教授の憲法特殊研究の講義の最初に松元教授の出欠の取り方に抗議したところ、松元教授から出ていけと言われ、原告は、そのまま退席して帰宅し、その途中で午後八時ころ顧問税理士の事務所兼自宅に立ち寄ったから、本件係争事実についてはいわゆるアリバイがあると主張し、原告本人尋問の結果中にもこれに沿う供述がある。しかしながら、本件事実関係に照らし、原告の右供述はたやすく信用し難く、また、証拠(甲三、原告本人)によれば、原告の顧問税理士である内田稔の事務所兼自宅は、埼玉県大宮市東大成町二-二一〇-三であって、原告の住所と一キロメートル程度しか離れていないこと及び原告は平成八年九月二五日に自動車で本件大学院から帰宅したことが認められ、本件係争事実が起きた後であっても右顧問税理士の事務所兼自宅に立ち寄ることは可能であると考えられることに照らしても、原告の右主張は採用することができず、他に、右主張を認めるに足りる証拠はない。

以上のとおり、本件係争事実はあったものと認められること並びに本件研究科委員会及び本件運営委員会においては、本件大学院の学生の受講態度、成績等本件大学院における学生の身上全般について審議することができると解されることによれば、被告が本件研究科委員会及び本件運営委員会において原告について本件発言をしたことは許されることであり、非難されるいわれはないというべきである。したがって、原告主張の本件名誉毀損等行為一及び二は成立しない。

三  よって、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉戒修一)

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